2016.11.17
音楽を買うのではなく、アーティストを応援するクラウドファンディングサービス「Patroen」
企業/サービス名
Patroen/Patroen
企業概要
本社:アメリカ・カリフォルニア
設立:2013年
創業者
・Jack Conte
ミュージシャン。自身でyoutubeを利用していた際の収益に疑問を感じサービスを開発。
資金調達
合計資金調達額:$47.1M
直近の調達:$30M・シリーズB・2016年1月
主な調達先:Thrive Capitalなど
サービス概要
アーティストの創作活動に対して、ファンが継続支援できるプラットフォーム。
Kickstarterのようなクラウドファンディングの一種にカテゴリーされるが、商品やプロジェクト単位での支援であるkickstarterなどのクラウドファンディングとは少し形態が異なり、当サービスは原則アーティストの創作活動自体に支援を行うサービス設計になっている。支援方法としては、例えば応援したいアーティストがいたら、そのアーティストが「1楽曲を作ると1ドル支払う」「1作品作ると5ドル支払う」といった支援を”定期的・継続的”に、サイト上で、支援登録をして、資金援助する形となっている。支援者は見返りとして、アーティストがプロジェクトを無事達成したら、支援者限定のストリーミング特典などを入手できる。マネタイズの詳細に関しては後述するが、この“継続性”というのが同サービスの一つの特徴となっている。
サービス開始から1年半で12万人以上の支援者登録を集め、総額$50M以上の寄付額を達成した。利用アーティストの多くはyoutubeビデオ制作者で他にもウェブコミックやポッドキャスト制作者、教育コンテンツ制作者などまで幅広い。Patroenの利用ミュージシャンであるAmanda Palmerは同サービスの活用を経て、音楽レーベルから独立を果たした。平均的な寄付額は寄付者一人あたり、プロジェクト(作品単位など)ごとに7ドル/月となっている。
サービス概略図
ターゲット
アーティスト
・個人クリエイター(独立志向あり、既存コンテンツ配信プラットフォーム利用)
ターゲットの課題
活動資金がない・稼げない
収入経路の衰退・減少(既存のCDなどの媒体の売上減少)により、以前よりもアーティストは稼ぐことが難しくなってきている。
本サービスが狙った業界
音楽/動画制作/芸術/他クリエイティブ業界
アメリカ音楽業界では、流通の多段階構造の中でレーベルなどに多く搾取されるので、CD1枚あたりでアーティストの収入は10%。また、itunesなどでも、0.99ドルの配信料のうち、アーティストの収入となるのは0.12ドルであり、その他はitunesやレコード会社、パブリッシャーなどが得る。
アメリカ全体の音楽収益の77%を1%のアーティストが売り上げている構造であり、レコード会社はそうしたトップアーティストへの投資偏重(プロモーション等)となり、その他アーティストはCDなどではなく、ライブ等で稼がざるを得なく、スケールメリットが出ない構造になっている。
発想の転換
本サービスでは、既存のプロダクション起点からアーティスト起点へと発想を転換。これまでプロダクション等が中心となって行ってきた、売りたいものを売るビジネスモデルを、ファンから事前に創作資金を集めてファンがほしい作品を販売するビジネスモデル構造に転換、それを可能にするプラットフォーム提供を行っている。
また、課金方法に関しても販売課金ではなく、継続課金へとシフトさせている。
マネタイズ
「1楽曲につき1ドル」「1作品につき5ドル」などを月毎に定額課金する
つまり、例えば支援しているクリエイターがプラットフォームを通して、7作品を制作したら、支援者であるあなたは、仮に「1作品につき5ドル」の選択を元に、7作品分である35ドルをその月に支払う。支払う直前に拒否もできる。キャンペーンはアーティストが任意に設定可能。一時金を設定するシステムなどもある。
アーティストがPatroenに登録し、ファンに向けて宣伝をする。ファンはアーティストのキャンペーンに登録をし、寄付。アーティストは作品を制作しpatroenに通知。Patroenはそれを受けて、集めた寄付金をアーティストに渡す仕組み。patroenは寄付の際に5%の手数料を徴収する。
考察
ファンクラブの進化版とも言えるサービス。プロダクションでもなく、itunesのようなプラットフォームとも異なる。商品(成果)ではなく、活動そのものに対して投資をするという所が、新しいカタチ。クラウドファンディングと似ている部分も多いが、”アーティスト活動”という連続性と、その業界の抱えていたアーティストに収益が還元されない旧態依然とした構造の強さをうまく捉えた好例と言えるだろう。
日本の類似サービス:Enty
マーケットアウト度
★★★☆☆