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不動産屋へ行かなくてもインターネットで部屋探しができるようになり、ずいぶん便利になってきたように思われる賃貸業界。しかし、その裏側にある不動産業者間の取引では、多くの非効率が存在していた。ここを効率化することで業界は変わる、もっと良くなる。そんな絵を描いて、業者間流通の効率化に挑戦しているのが、今回、話を伺った株式会社セイルボートだ。同社は今年8月に新サービスをリリースし、業界を変える歩みを一歩先に進めた。代表取締役の西野量氏、開発部プロダクトマネージャーの吉村竜一氏に、賃貸業界の何を変えようとしているのか、そして、新たなサービスで何を目指すのかを聞いた。

不動産業界にひそむ非効率を共通のインフラで解消

賃貸業界で事業を営む不動産会社には大きく分けて2タイプの不動産会社がある。一つは仲介を主とする仲介会社、部屋を借りる時に入居者が足を運ぶところだ。もう一方は家主から賃貸物件を預かって管理する管理会社。

この仲介会社と管理会社との間での取引、すなわち、業者間流通では、ITによる効率化が遅れていた。両者の間を行き来する情報は、主に紙の書類に書かれている上、情報量も多い。たとえば、部屋探しから賃貸契約に至るまでには、間取り図や物件情報、内覧希望や鍵の貸し借り、入居申込書や賃貸契約書など、さまざまな情報が行き交い、煩雑になっていた。

管理会社と仲介会社が継続的な関係にあれば、効率的に処理するための仕組みをつくることもできるが、どの会社も毎回、違う相手と取引をしている。管理会社と仲介会社を合わせると、全国の不動産会社は約13万社。管理会社は物件情報をあらゆる仲介会社に配信し、仲介会社は空室確認をあらゆる管理会社に問い合わせるが、その間を交通整理するような第三者は存在しない。

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図中の川中部分が業者間流通。ここだけに特化したサービスは当時なかった。

「この非効率を根本的に解決するためには、プラットフォームをつくるしか方法がなかった」と語るのは、代表の西野氏だ。

不動産会社が集まるプラットフォームを提供し、そこをハブにして情報をやり取りすれば、効率性はあがるはず。そこで、まずは入り口である物件情報のやり取りの効率化からサービス化に取り組んだ。それが、2011年に立ち上がった業者間情報流通システム「キマRoom!」だ。

機能は、主に「募集図面配信」「物件管理」「コンバート」の3種類。 「募集図面配信」機能は、管理会社が発生した空き室情報を一括で送信できる機能。従来は別々に送っていた募集図面や周辺地図をまとめて多くの仲介会社に届けることができる。

「物件管理」機能を使えば、入退去の管理を一つのシステム上に集約できる。社内の情報共有もスムーズだ。

「コンバート」機能は主要ポータルサイトに一括で広告入稿するもので、何度も同じ内容を打ち込む手間や、そうした作業で生じやすい抜け漏れを防ぐことができる。

一物件だけなら、システム導入で短縮できる時間は小さなものだが、管理戸数分を積み上げればバカにならない量だ。仲介・管理双方が「キマRoom!」という一つのプラットフォームで情報のやり取りを完結できれば効率的である。管理側にも仲介側にもメリットのある「キマRoom!」はリリース以降、徐々に利用者数を増やし、本社のある広島から全国へ支持を広げていった。

なくても困らないプラットフォームへの参加を促すには

前職は不動産売買の広告営業をしていた西野氏。当時、広告を営業していて、疑問に思ったことがあった。

大手から独立系の小さな不動産会社まで、広島の不動産会社ならどんな規模であっても必ず置いてある資料が一冊あったのだ。県内の物件情報を網羅した、その資料は月額5万円。西野氏が販売していたのは、全国区の超大手の5000円の広告枠だった。

「うちの広告が出せないという小さな会社でも、その資料は絶対にあった。5000円が出せないのに、なぜ5万円が出せるのか。よくよく聞くと広島では15年の歴史がある資料で、それがなければ仕事にならないと言われるほど広島の不動産会社には浸透していた」

起業後に不動産賃貸事業に関わるようになり、この領域ではその5万円の資料に代わるものがないことを知った。賃貸版もあれば皆が使うのではないかと考え、それが存在しない理由を探った。すると、主な理由は、情報提供していた会社がそこまで手を広げる余裕がなかっただけ。これはやるしかないと、あらゆる不動産会社が使う物件データベースとして、「キマRoom!」を始めた。

ニーズはあるだろうと踏んだが、15年をかけて築き上げたその資料の浸透度に匹敵するポジションを確立するには、戦略が必要だった。なければないで充分に成立しているところへ、物件を登録する手間や利用料をはらってもらわなくてはならない。そこで、まずは独立したツールとして利用してもらう作戦をとった。

なくても物件情報は入手できているのである。「キマRoom!」でカバーできる物件が増えなければ「全部、ひとつで網羅できて便利だね」とはならない。15年の実績に匹敵する認知度を獲得し、さらに「うちでも使ってみよう」と思わせるには戦略が必要である。そこで、同社がとったのは管理会社にシステムをどんどん使ってもらい、彼らに広めてもらうという方法だ。

「まず、管理会社が仲介会社に一括で物件情報を送信できるような仕掛けをつくった。そうすると、管理会社側には参加動機が生まれる。そして、その送信メールのなかに「キマRoom!」から送信していることを示す文言を入れた。仲介会社はプラットフォームに登録していなくても、「キマRoom!」経由で送られた物件情報が閲覧できる。そのうち、さまざまな管理会社が同じ「キマRoom!」から送信していることに気付き、登録すれば一括で見られると知れば、プラットフォームに参加する動機が生まれる。まずは便利なツールとして慣れ親しんでもらうことで、プラットフォーム内の情報量を増やし、価値を高めた」

こうした工夫を積み重ね、不動産会社のニーズを上手く汲み取りながら、地道にプラットフォームを育てていった。その甲斐あって、現在では全国1,000社が利用するシステムとなっている。賃貸版の共通インフラとして、かつて、西野氏があらゆる不動産会社で見た5万円の不動産売買資料に匹敵するだけの地位は充分に確立できたと言えるだろう。

効率化を推進するのは、エンドユーザーのメリットのため

しかし、「キマRoom!」で目指すのは物件データベースではない。「キマRoom!」はあくまでも効率化を促すための一ツールであり、同社が目指すのは不動産業界のサービス向上である。

「業界の非効率をワンプラットフォームで解決しようというのは自分が独自に考えたアイディアではない。アメリカには既にMLSというシステムがあり、法制度も含めた効率化が進んでいる」と西野氏。

日本でプラットフォーム化が進んでいない理由は、それがなくても仕事ができるから。不動産会社の商圏は概ね前後2駅で、それを越えると別世界。小さな商圏だから電話、FAXでも仕事ができてしまう。全国だ、世界だという売り文句は、不動産業者にはそれほど響かないのだ。それでも、業者間の情報のやり取りを一つのプラットフォーム上に集約していくことには意義があるという。入居者、すなわちエンドユーザーのメリットだ。

「不動産業者は物件を探して紹介するだけで手いっぱいだが、その業務が効率化できれば一歩先のサービスに踏み込める。結果的に業界全体がユーザーにとって最適化された状態になる」

たとえば、メール・FAXのやり取りや電話対応にかかっていた時間を短縮することで、物件紹介や内覧などがスムーズになる。室内の細かな物件写真を撮る時間も確保できる。大量の書類のなかで細かな契約内容を見落としてトラブルになるといったことも防げる。

言い換えれば、業界全体が効率化されると、物件を探して紹介するだけでは差別化できなくなり、新たな付加価値をつけざるを得なくなるとも言える。

「『キマRoom!』では物件情報を集約し、管理・検索できるようにしたが、8月に新しくリリースしたサービスでは、次の段階の申込情報のやり取りを効率化する。最終的には物件探しから申し込み、契約までの業務フローすべてを統一するプラットフォームを目指したい」

これが実現すれば、入居者は不動産会社へ行かずに手続きが完了できるようになる。スマートロックを採用すれば、仕事終わりに夜の様子をフラッと内覧といったことも可能だ。入居希望者にとって非常に快適な部屋探しになるだろう。

オーナー側も、空き室を埋めるための物件の差別化、より効果的な資産管理、マネジメントを期待できる。業者間流通の効率化は、不動産に関わる全員にとってハッピーな状態へとつながっていくのだ。

後編では、効率化をさらに一歩すすめるべく、この夏にリリースしたサービスについて詳しく伺った。

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