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特定のユーザー課題を解決するサービスは、誰にとっても分かりやすい。
一方、業界の課題を解決するサービスは、そもそも企業によってニーズや価値観が異なるため、誰にとって何が問題なのか、解決すべき課題を見いだすのが難しい。業界では当たり前の商習慣が、一歩ひいてみれば、解決すべき非効率であったということも多々ある。業界を俯瞰でみて、あるべき姿に一新してくれる改革者の出現を待ち望む分野も多い。

今回、取材した株式会社トラスは建材業界の改革を志すスタートアップだ。2016年に建材比較サイトを立ち上げ、業界に一石を投じた。
創業メンバーは建築学科の同窓生。商社、設計事務所、ソフトウェア会社と異なる現場を経験した3人の視点から生まれたのは、業界のなかからは生まれなかった革新的なサービスだった。

誰も手をつけなかったデータベース化に着手

建材比較サイト「truss」は世の中に存在する建築資材を比較できるサイト。現在、約1万点の商品が登録されている。

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商品をシリーズ別に検索できる画面の一例

商品ブランドやメーカー別に商品を検索できる比較サイトはそれほど珍しくないようにも思われるが、これは業界においては画期的なことだった。
各社のカタログPDFをダウンロードできるサイトやWEBカタログを見られるサイトはあったが、カタログ内の製品をインターネット上でひとつひとつ比較できるサイトはなかったからだ。
久保田氏が学生だった当時の建築教育はどちらかというと、アーティストの育成。世間でもスター建築家がもてはやされ、作品づくりが第一で、作業の効率化に目を向ける文化はなかった。

その名残なのか、今でも、10人にも満たない設計事務所で、壁一面を占めるのは1000冊以上の紙のカタログ。それでも、市場に出回る建材のすべてではない。膨大な量の選択肢から、プランに最適なデザインで予算に合い、かつ、性能が建築基準法などの法律的な条件もクリアした建材を選びとることはほぼ不可能だ。結果として、実際の設計現場では、都度、調べたりはせずに使い慣れた商品を選ぶことが多く、メーカー肝いりの新製品が発売後、数年経っても浸透していないということも珍しくない。

そこで、「truss」では、各社のカタログから性能や価格情報をとりだしてデータベース化し、多くの選択肢から条件的に使えるものを絞り込めるようにした。

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法律上、その部位に必要とされる要件を入力して、適合する建材を絞り込める画面

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検索結果をグラフ表示したところ。プロットされた点が各社の商品。下部に示された表からメーカーサイトへのリンクが張られ、詳しい情報もすぐに見られる。

「紙のカタログでは、たとえば、設計単価でいうと、坪単位で表示しているメーカーもあれば、平米単位で表示しているメーカーもある。比較軸を設定するのに非常に苦労した」と久保田氏。

こうした異なる表示形式の情報を、メーカー横断で比較できるようにするという発想は、なかなかメーカー側からは生まれにくい。設計者とて、建材選びは設計プロセスのごく一部でしかない。紙のカタログで選ぶのが当たり前の習慣なら、そこに疑問を抱く余地もない。かくして、誰も取り組んでいなかったデータベース化を、「truss」は実現したというわけである。

比較サイトで掘り起こされた、潜在的なニーズ

「truss」のターゲットユーザーは設計士である。しかし、当の設計士自身が、今ある多くの建材を実質的には比較しきれていないということを、問題とは認識していなかった。 ひょんなことから「これだけ多くの建材から適切なものを選ぶのは、非常に大変なのでは?」と気付いた久保田氏。設計事務所に勤める同窓生にどうやって建材を選んでいるのかと尋ねると、紙のカタログを示し、何を聞くのかと言わんばかりだったという。大変ではないのかと問いかけても、さほど問題に感じている様子は見られなかった。

では、ユーザーが比較作業の効率化を求めていなかったのかというと、そうでもない。簡単に絞り込めるデータベースか、自分の記憶と紙のカタログの中から選ぶかでいえば、当然、便利な方がいい。実際に、「truss」を利用した設計士からは良い評価を得ている。本当は誰だって楽をしたいのだ。

ただ、紙を使うことがあまりにも当たり前すぎて、効率化という発想がピンときていないだけなのだ。

このように、ユーザー自身が自分のニーズに自覚的でないため、ただメディアに載せてサイトをPRするだけでは、ユーザーの興味を引くことができない。まずはユーザー自身に比較サイトの有用性に気付いてもらうことが大事だ。そのためにも、商品の数を増やし、サイトを充実させることに力を注ぐ。

「自分では選んだと思っていても、世の中にある建材のすべてを見てはいないということに気付いてほしい。だから、サイト上でたくさんの選択肢を見せたい。多数の建材のなかから、選べれば新たな建材との出会いも期待できる」

アーティスト志向の人や職人志向の人たちは、どちらかというと、楽をするために作業を効率化することを好まない傾向が強い。
それでも久保田氏はこの比較サイトの有用性を信じている。「設計事務所に就職したデジタル世代の設計士たちは自分が学生時代、膨大な紙のカタログを見て驚いたように、途方にくれるはず」だからだ。
業界に染まりきっていない若手が、「truss」を利用して紙では探しきれなかった建材を見つけ、「あれ、こんな建材があるの?これ、どこで見つけたの?」と、紙世代の意識を変えていく可能性は大いにある。紙世代の設計士も新しい建材を使ってみたくないわけではないのだ。一度、浸透すれば、なくてはならない存在になっていくだろう。

こうして、少々ややこしい心理の奥にしまい込まれていたニーズを、少しずつ比較サイトで顕在化させようとしている。

また、こうした比較サイトは、商品情報が届けきれていなかったメーカー側、特に、良い製品でありながら知名度の低い中小企業にとっては有効な広告手段でもある。

「あまり知られていない建材のなかにも良いものはたくさんある。建物の外皮部分に限っても、現在リストアップしているだけでメーカーは350社。これだけの選択肢があるのだということはユーザーに見せたい」生産者がタブレット端末で意思決定

 

プロセス全体を効率化し、良い建物を増やす

設計業務では、依頼から引き渡しまで、数年かかるプロジェクトはざらにある。そして、その作業の多くは紙ベースで行われている。

建材を選定する期間は、そのうちのわずか数週間ほど。現在の「truss」は建材の比較検討段階のみに利用するツールだが、いずれは、設計プロセスを最初から最後まで電子的に記録し、管理できるツールにしていくつもりだという。

「たとえば、工場、役所といった施設のタイプ毎に設計過程を管理ツールで記録できるようにすれば、過去に起こったトラブル事例や事務所のデザインルールなど、設計過程で気をつけるべきことを共有しやすい。現在は、仮に記録が残っていたとしても手入力のExcelや紙資料をPDF化したもので、過去の似た物件でどんな建材を使い、その後どうなったのかを調べられる状態ではない。もし、設計プロセス全体をIT化できれば、設計業務全体の効率化、品質向上につながる」

建築作品といえばアートワークのような印象も受けるが、実際の設計業務はクライアントワークである。まずは予算があり、クライアントの要望があって、それを満たす設計図を描くことになる。しかし、多くの建材は仕入れルートによって金額が変わり、工事価格も業者によって異なるため、予算内におさまるかどうかを確認するために何度も図面を書く。さらに、建築物をつくるということは都市計画にも関わってくるため、行政との折衝もある。何度も手戻りがあるのが現状だ。

こうした一連の業務を管理ツールで効率化すれば、その分の予算や設計士の時間を、本来かけるべきところに集中できる。

「建物は建材の集合体。適切な建材を効果的に組み合わせられれば建物の質もあがるはず。長く使われるいい建物が残っていってほしい」。

建材、そして、建築の業界の効率化を課題と捉え、改革の端緒として立ち上げた建材比較サイト「truss」。

後編では、ここから始まる業界の改革は社会に対してどんな貢献をするのか、トラスの仕事について詳しく聞いた。

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